現実世界で捕まえて
「あなたには呆れました」
置き土産にそんな言葉を残し
死神は先に資料室を出て行った。
どうなった?桜子ちゃんワープした?
桜子ちゃんが魔法のように瞬間移動してますようにと、私も走って給湯室へ行ったけど、そこには憔悴しきった桜子ちゃんがまだ泣いていた。
あんなに幸せそうに
照れながら指輪を見せてくれたのに。
「まだ残ってたか。二人とも早くっ。早くこっちに来て……」
総務部長が身体をガクガクさせながら給湯室に飛び込んだ。
桜子ちゃんは首を静かに横に振り動かなかったので、私が総務部長に捕まってフロアに連れて行かれた。
どうしたんだろ。社に居る人は全員集合。
資材配送関係の人まで倉庫からこっちに集まってる。
何かあったの?
人混みの中央を見ると
社長が来ていた。
社長?すごいー。
生で見るのは入社式以来だ。
大きな本社からどうしたの?こんな子会社へ。
「お茶でも入れます」
みんなで頭を下げてペコペコしてる。
「いや。すぐ行くからいいよ。迷惑かけて悪いね」
大会社の社長なのに偉そうな感じはなく、背の高いロマンスグレーのおしゃれなおじ様だ。
「社長がどうしてうちに?」
コソコソって近くの先輩に聞くと
「これから北洋物産の社長達とプライベートジェットで鹿児島に行くんだけど、秘書の人がうちの会社の前で急にお腹が痛くなって、トイレ行ってる」
鹿児島ってワードにピクリと反応する。
社長は腕時計をチラ見して
「もう遅いからいいな。秘書は置いて行くから頼むよ。これからプライベートジェットですぐ鹿児島空港まで行かねばならない。他の社長達と付き合いでプライベートジェットを買って共有してるんだけど、これがまた乗りやすくていいんだよ。鹿児島まで2時間ちょいだから」
2時間ちょい。
「秘書の分の席が空いたから、誰か一緒に行きたい人はいるかな?先着一名様だぞ」
楽しそうに
笑いながら社長が言うので
私はその場でジャンプして
手を真っ直ぐ上げて大きな声を出す。
「はいっ。行きます行きます。連れて行って下さい!」
みんなが私に注目していた。