現実世界で捕まえて

「お腹は空いてませんか?」

どうしてそんなに優しいの?
いつものように嫌味を言ってよ。

3つ目の願いに呆れてたくせに。
キリが無いって怒ってよ。
バカなヤツって笑っていいんだよ。

そうだよ。
わかってたんだ。
平野課長は私をお財布代わりにしてたって、わかってたんだよ。

だって
私みたいな地味なごくごく普通なOLが、平野課長の目に留まるワケないもん。

お金でも持ってないと声かけてくれないよ。

だまされてるってわかってたよ。

部屋にも入れてくれなかった。

でもね

「幸せだった」
小さな声がやっと出た。

「亮さんが私の名前を優しく呼んで、優しくキスしてくれて、にっこり笑って、一緒に買い物行って食事に行って、隣に並んで手を繋いで恋人同士みたいで……幸せだった」

涙が止まらない。
嗚咽が止まらない。

「だまされてても……幸せだった」

胸が苦しい。
唇をかみしめて想いを告げた瞬間

ふわっと優しく身体を抱かれた。

冷たい唇が私の額に重なる。

「わかってる」

クールな声が聞こえたから

私は思いっきり彼の冷たい腕の中で泣いた。

泣けるだけ

泣いた。


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