現実世界で捕まえて
桜子ちゃんは私の肩をつかんで壁にドンした。
綺麗な顔って真剣になると怖い。
死神に通じてる。
「西上係長は、留美の事を好きだと思う」
「それはない」
「私の勘って当たるんだ。留美は平野課長より西上係長の方が似合ってる」
「やめてよ」
「じゃ平野課長とは合うっていうの?」
「平野課長とは……もう……終わった」
うつむき加減でそう言うと
桜子ちゃんの黒い髪がふんわりと私の頬にかかり、彼女はギュッと私を抱きしめた。
「よかった」
心からの声に私は目が熱くなる。
ごめんね心配かけて。
桜子ちゃんは反対してたよね
私が平野課長にだまされて傷付くって、わかってたんだよね。
「心配かけてごめんね」
「わかってくれてよかった」
恋は盲目って
昔の人は言うけれど
平野課長の悪巧みは見えなかった。
ううん。見えないふりをしていた愚かな私。
私の真正面に見えるのは、給湯室に飾られたカレンダー。
3月4月は鮮やかな桜の写真。
もう春は目の前で
桜は蕾をふくらませているけれど
私の中で桜は散った。