現実世界で捕まえて
「もっと命を大切にして、自分を大切にして、流されず自信を持って生きて下さい」
低い穏やかな声が部屋に響き
彼が軽く指を鳴らすと部屋の照明が全て消えた。
ザワザワと背中が冷たくなり
乾いた風が足元に流れる。
「素晴らしい人生になるよう願ってます」
「ちょっと待って」
呪文が聞こえる
彼の口から言葉に例えられないような、不思議な音が聞こえてくる。
「お願いやめて」
暗い部屋で彼の身体を揺らして呪文を止めさせようとするけれど、私の力は及ばず部屋中に彼の音が溢れて耳鳴りと目まいが私を襲う。
私の犠牲にならないで。
自分だって生きたいはずだよ。
人間界が好きなんでしょう。
だってあんなに楽しそうに料理してたし。
魔法で……いや、能力で簡単に料理なんてできるはずなのに
楽しそうに料理して楽しそうにテレビ観て。
仕事だって実力でしょう。
人間ごときの仕事は簡単だったかもしれないけれど
あなたのドS加減は最強だったよ。
すんごく楽しそうに仕事して、本社からスカウトくるぐらいでしょう。
そして
優しくキスしてくれたよね。
冷たい唇で優しくキスしてくれた。
私の事が好きなら
自分を犠牲にしないで。
まだ私は最後のお願いをしていない。
間に合うか?
いや間に合わす。
神様聞いてちょうだい!