陽だまりのなかの僕ら

私が名前を呼ぶと、おうちゃんは顔に笑みを刻み、手をひらひらさせた。

「偶然だね。俺、そろそろ帰ろうと思ってたとこ。」

おうちゃんが、やんわりと表情を緩める。

この人は、山崎 桜輔(やまざきおうすけ)。
私のひとつ上の、高校三年生。

仲の良い幼馴染みであり、お兄ちゃんのようであり。

大切な、人です。

おうちゃんはニコッとすると、私の頭をなめらかな手でさらりとなでた。

「そうなんだー」
おうちゃんといると、自然に笑顔になれるから、不思議。

胸がじんわりあたたかくなる。

いひひって笑いたくなるけど、ちょっと我慢しよう。


「あ、そうだ・・・ケホッゴホッ・・・ゴホッ」


おうちゃんが突然苦しそうに顔を歪める。
私は慌てておうちゃんの背中をさすった。

「おうちゃん?!大丈夫!?」

苦しそうな顔をしながらも、おうちゃんは笑顔を滲ませる。

「うん、大丈夫。ちょっとした風邪だよ。」

「・・・ほんとに、風邪?」

私は心配で、ただ真剣におうちゃんを見据えた。

それを見たおうちゃんが、困った、という顔をして笑った。
すっと両手を前に出して、まるで子供をなだめるお兄さんみたい。

「あはは、もう。詩麻、大丈夫だから。心配しすぎは自分に毒だよ。」

そして、私をなだめるように両手で私の頬を包んだ。

「・・・そう・・・」


おうちゃんは昔から病弱で、学校に何週間も来られないことが何度もあった。

だからこそ、病気に発展しないか、心配なのだ。

入院だって、何回したかわからないくらい・・・。


「あ、そうだ。」

おうちゃんが思いついたように言う。

「・・・なに?」


「今日はさ、病院行かないんだ。だから、久しぶりに一緒に帰ろうよ。」

突然の、おうちゃんからのお誘い。

すごく嬉しい。けど・・・


「ごめんね。私これから教室にプリント届けて、それからクラスについて先生達と話さなきゃで―――・・・」
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