陽だまりのなかの僕ら
「今日はちょっと近道するね。」
大通りから、小さな路地裏に曲がっていった。
私の知らない場所。
この世の中は、私の知らないことで溢れてる。
先ほどのコンクリートの道から一変、石畳の綺麗な住宅街に出た。
辺りを見回せば、どれも新築の綺麗な家ばかり。
コツコツと気持ちの良い音を立てて、私たちの足音が閑静な住宅街に響いた。
ときどき、甘くてお上品な匂いがした。
ゆるやかな坂にさしかかり、やがて階段が現れた。それも石で作られていて、とてもお洒落。
上った階段の上から見た街の景色は、とても美しかった。
おおきなビルもあれば、小さな公園で遊ぶ子供たちもいて。電車が線路を走って、色々な人が忙しなく歩き回って。
そのすべてを、夕日がオレンジに塗って。
「・・・綺麗でしょ。」
ふいに壮が振り返り、私の手をそっと離しながら言った。
「・・・うん。すごく。」
私の周りは、綺麗な人やもので溢れすぎてる。私には、すごくもったいない。
私は、こんなにも汚いのに、弱虫なのに。どうして。
「ここ、俺のお気に入り。・・・俺が好きな人しか、連れてこない。」
そう言われて、隣にいる壮を見るけれど、壮はまっすぐ夕日を見ていて、こっちを見てはくれなかった。
「・・・そして、人を連れてきたのはこれが初めてでーす。」
にこっとこっちを向いて笑う壮。
そういうことをさらっと言うんだから・・・。
「・・・こんなことしてたら、近道どころか、遠回りになっちゃうね。もう、行こうか。」
「うん。」
また、小さな路地にさしかかり、やがて、広く開けたところに出た。
そこには、小さなお城みたいにメルヘンチックな家が建っていた。
少し大きな門が、目の前には建っている。
「ここが、俺の家。」
「そうなんだ・・・」
本当に、お城に住む王子様だなあ・・・
そう思って、壮に視線を移す。
黒髪が夏風に揺れて、不思議な雰囲気を出していた。