陽だまりのなかの僕ら
しばらくの沈黙のあと、ゆっくりと壮が語り始める。
「・・・でもさ、俺。小さい頃・・・って言っても小6くらいの時かな。いっちばん大好きだった兄ちゃんが、友達と遊び行った時に、交通事故で死んだんだ。」
「え・・・」
壮が私の両手を優しく包み、やがて自分の心臓のあたりに私の手を当てた。
「・・・ここ。」
「・・・・・・。」
「心臓に、ぽっかり穴があいたみたいな、そんな気分だった。なんていうか、当たり前にいた人が、急にいなくなったことに、不思議さを感じた。」
私の胸が、ぎゅっと締めつけられるような感覚に陥った。
そして、泣きそうになるのを堪えて、じっと壮を見据える。
「・・・泣かなかったんだ。父さんや、母さんみたいには。泣いても、何にもなんねぇよな・・・って思って。それで・・・。父さんと母さんはすぐ仕事に戻った。けど、俺は放心状態で、1週間くらい学校休んだ。」
声は優しいのに、瞳が揺れて、とても悲しそうな顔をしていた。
よっぽど、辛かったんだろうな。
でも、泣かないところが、壮の強さなんだ。
壮の心臓に当てられた私の手に、伝わってくる、壮の優しさと、その、影。
ドク・・・ドク・・・と、いのちのおと。
「・・・私もね。」
私が喋ったことがまるで不思議なことでもあるかのように、壮が目をぱちくりさせる。
「・・・小さい頃・・・6歳の時・・・お父さんが、自殺をしたの。・・・原因は、会社の上司・・・。」
胸がぎゅうっと苦しくなって、ぐっと涙をこらえ、俯いたまま、話す。
「自殺・・・小さい頃の私には、重すぎた。・・・大好きなパパ・・・。あんなに、家族で仲良く暮らしてたのに・・・。」
あんなに、何不自由なく暮らせてたのに・・・
あんなに、笑って暮らしてたのに・・・。
朝帰ってくることが多かったのは、残業を沢山させられていたせい。
でも、私たちには、『これであと少し頑張れば、出世できるんだよ。』っと言って笑ってた。
・・・優しい、優しい、パパの嘘。
保険金は、たくさん、おりた。
でも、そんなもの、ママも、私も、いらなかったんだ。
願ったのは、パパが生きててくれれば・・・ということだけ。