陽だまりのなかの僕ら


だめだ。

ここを抜けたら、君がいなくなってしまう気がする。

思い出が、全部弾け飛んでしまうような。
懐かしい記憶も、全部。
君との大切な思い出も、全部。

「・・・だめっ!」

トンネルを抜けようとするおうちゃんを、私は手を引っ張って引き止めた。
驚いた様子のおうちゃんが、私を振り返る。

「どうしたの、早く行こうよ」

おうちゃんを見ようとするけど、暗くてよく見えない。
でも、おうちゃんの白い肌と、深い緑の瞳だけは、しっかりと見据えた。

そして、ぽつり。


「ここを通ったら、きっとおうちゃんが消えてしまうような気がするの。・・・だからっ・・・」

ふいに、手をぐいっと引っ張られ、引き寄せられる。

そう、抱きしめられたんだ。

「・・・大丈夫。俺は、消えないよ。・・・俺は、ずっと詩麻のそばにいる。」

おうちゃんが、さらりと私の髪の毛をなでる。

息遣いとか、そういうのまで、全部。
耳元で低く響いた。心地よい、唇から零れる一音一音。

「・・・・・・」

私は目を瞑って頷いた。

「・・・うん。わかった」

私もやんわり、抱き締め返した。

< 88 / 107 >

この作品をシェア

pagetop