この青空が溶けて見えなくなる前に。
先生に「廊下を走るな!」と注意されても、駆ける足は止められなくて。
着いた先は数学研究室。
みんなが略して数研と呼ぶこの部屋は、いつもただ一人の教師が独り占めして使っている。
私はノックをせずに数研の戸を開ける。
「大ちゃん!数学の教科書貸して!」
太陽の光に当たって茶色い、綺麗に整えられた髪。
椅子の背もたれに全体重をのせ、気怠そうに寄りかかる見慣れた姿に今日も見惚れる。
「…先生のことをちゃん付けにするのはよくないぞ?希子」
その姿勢のまま椅子を回転させてこっちを向いた大輝(たいき)こと大ちゃんは、ニッと歯を見せて笑った。
「大ちゃん先生だって生徒のこと名前で呼び捨てにしてます~」
「俺はいんだよ、先生だから」
いつものように訳の分からない屁理屈を拗ねる子供のように言う彼は、相変わらずかっこよくて。
大ちゃんは私と友里亜のクラスの副担であり、友里亜のお兄ちゃん。
そして私の好きな人。
出会った頃から今まで、ずっと好きな人。