お金持ちなんて大嫌い!
「海翔、行くぞ」


「ん」


仲間に声をかけられるといつもの無愛想な返事をして、読んでいる本を閉じる九条の姿を目で捉えた。


私が何度桐谷にジュースを献上しに行っても、目なんてあうこともなく、言葉を交わすこともない。


もちろん笑顔なんて見せなかった。


あの時、見たあの笑顔はもしかしたら幻だったのかもしれない。


そういう風にさえ思ってきた。


それでも、いつもこの場所に来た時は彼の姿を目で追っている私がいた。


目なんて合わないけど。


それでも姿が見えただけで、少し、嬉しかったんだ。

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