Polaris
第2章 画面越しの声が優しくて、温かくて、恋しい
「はい。お電話ありがとうございます。こちらナチュラルファクトリー商品受注センター、唯川が承ります。はい……はい。そちらを一冊ですね。かしこまりました。取り次ぎ様への搬入は、明日、9日の火曜日となります。はい。ありがとうございました」
ガチャンという音を立てて受話器をもとに戻すと、私は「ふう」とひと息ついた。
ここは、私の働く小さな出版社、ナチュラルファクトリーの受注センター。そこで、私はいつものように各書店の方からの電話注文に応えていた。
「あたしぃ、この間、データの入力ミスしちゃっただけですごい怒られちゃったんだけどぉ。もう」
「あー、あたしもあたしも。そんな怒ることないじゃんねー? この会社、そういう所うるさいよね」
まだ周りで鳴っている電話。それをとろうともせず、愚痴ばかり並べている2人の若い女の子。
可愛らしいふわふわした雰囲気が印象的な今井(いまい)さんと、少しギャルっぽい雰囲気の芹川(せりかわ)さん。
同じ空間にいて、同じ仕事をしなければならないはずなのに、この2人はいつもこうだ。