Polaris
「隠してたこと……?」
「うん」
「何を……隠してたの?」
樹が、大きく深呼吸をした。
今までに見た事がない深刻そうな樹の顔。私の方を見る事はなく、地面に視線を落としたままで、彼は、ゆっくり、ゆっくりと口を開いた。
「……俺、病気なんだ。若年性認知症っていう病気」
「若年性、認知症……」
言われて、すぐにはピンと来なかった。
ただ、認知症という病名はテレビやその他メディアでも聞くことが多く、その症状だって少しは予測がつく。
「名前は知ってても、ピンと来ないかもしれないね。俺のは若年性認知症の中でもアルツハイマー型の認知症で……まぁ、簡単に言うと、物忘れが激しくなったり、人格が変わっちゃったり、友達の事とか家族のこと忘れちゃったり……寝たきりになったりする。最後には、死んじゃう病気」
「え…………?」
樹の最後の言葉に、私は息を飲んだ。
私が予測したものとは、まるで違った。私が知っている認知症は……私の中にあったのは、物忘れが激しくなってしまうという知識だけだった。
それなのに、友達や家族の事も忘れて、最後には死んでしまう……?
「脳が、どんどん萎縮していくんだってさ。だから、ひとりでは動けなくなって、寝たきりになっちゃう。そのうち呼吸器合併症なんかになって死んじゃう事もあるらしい」