Polaris

「なんで……嘘だよね……?」


やっと口から出た言葉は、現実逃避しようとしているような情けない言葉。

こんなの、嘘なわけないと分かっている。こんな嘘、樹がつくわけないと分かっている。だけど、嘘だと言って欲しいという一心だった。


「嘘じゃないよ」

「っ……」

「嘘……なら、いいのにね」


樹の言葉が、私の胸に重くのしかかる。

これが、嘘ならいいと一番に思っているのは樹だ。それなのに私は……。


「治らないの……?」

「……そうだねぇ。早期発見できたら進行を遅らせることも出来るみたいだけど……治らない、かな……多分」

「樹は……気づくのが遅かったの?」

「……いや、他の人よりは早かったかもしれない。一年くらい前かな、めまいとかストレスとか凄くてさ。診察してもらったら最初、鬱だって診断されたんだよね。でも、その後、他の病院で再診察したら認知症だった。俺の母親ね、認知症で亡くなったんだけどさ……どうも認知症って遺伝するらしくて……気づかなかっただけで、本当はもっと早くから発症してたのかもしれない」

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