Polaris
「いつも自分のした事とか、仕事内容とか、忘れないように携帯にこまめにメモしてたし、まだ少しの物忘れぐらいだったから、本社で雑務とかさせてもらってたんだけど……最近は少し酷くなってきた。そのうち仕事も出来なくなるくらいの症状になると思う。だから、東京のJECの製品作ってる工場に転勤して働くんだ。まぁ、病気の進行具合によってはすぐに働けなくなるかもしれないけどね」
「そう……なんだ……」
どう、声をかければいいか分からない。
ただ、私はどうして樹なの? と問いかけたい気持ちだったけれど……それも、一番に感じているのは樹なんだ。そう思うと、とても口にはできなかった。
「……ごめんね。キョンキョン」
「何で、樹が謝るの」
「……そうだなぁ。こんな話しなくちゃいけない男で……普通の健康な男じゃなくて、かな」
「何言っ……てんのよ」
樹の切ない声と、表情と、言葉。それらに私の涙腺はひどく緩んでしまった。
目からは溢れんほどに流れてくる涙。それは、どうしても止められなくて、私はただただ頰を服の袖で拭っていた。