Polaris
「ありがとう」
そう言って笑った樹の寝ているベッド。その横にある丸いイスに腰掛けた。
私は、取り出したプリンを一旦サイドテーブルに置くと、樹の背中に右手をまわし、ゆっくりと体を起こした。
樹も一生懸命体を起こそうと力を入れているけれど、もう、一人で起き上がることは難しい。そのくらいの力しか入らない。
「ごめん。ありがとう」
日に日に弱まっているような気がする樹の筋力。それを毎日見ていくのは辛くて苦しい。
だけど、私はそれを悟られないように常に笑顔でいないといけないし、彼と一緒にいる時は、やっぱり笑顔でいたい。
「よし。それじゃあ、あーんして」
「ん」
ゆっくりと、大きく口を開けた樹。その樹の口の中に、小さくスプーンにすくったプリンを入れた。
樹は、それを美味しそうに食べるけれど、少しだけ複雑そうな表情をする。
時間をかけてプリンを全て食べ終わると、樹は「ごめんね」と呟く。
「何言ってんのよ」
私は、樹が口癖のように言うその言葉に笑って返した。