朱
父親は僕が物音を少しでもたてると、怒り狂い僕をぶん殴った。
何度も何度も何度も何度も何度も
力いっぱい僕を蹴った。
何度も何度も何度も何度も何度も
でも顔は殴らなかった。
だから周りの人間は
誰も何も気付いてはくれなかった。
もし誰かが気づいてくれれば
何か変わったかもしれない。
物音をたてなくても
殴られることは沢山あった。
イライラしたから。
暑かったから。
そんな理由で、何度も殴られた。
人間が罪を犯す理由なんて
案外こんなものなのかもしれない。
お母さんは
僕が殴られるたびかばってくれた。
お母さんも
殴られてた。
何度も 何度も 何度も 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
でもお母さんは1度も
1度も泣かなかった。
殴られても蹴られても、
父親が若い女を家に連れて帰ってきた時も
お母さんは
「一緒に外にお散歩行こうか」って
僕に微笑みながら言っただけだった。
その顔は美しくなかった。
今にも泣きそうな 歪んだ顔
結局、僕がお母さんが泣いているところを見ることはなかった。
今思えば
僕に涙を見せまいと
ひっそりと隠れて泣いていたんだろう。
まだ幼い僕は
そのことに気付けなかった。