Ri.Night Ⅴ ~Final~【全完結】
「十夜」
貴兄が小声で十夜を呼び、その呼び掛けに十夜が小さく頷く。
「分かった。明日そこで待つ」
十夜がそう言うと、シンは『明日が楽しみだな』と愉しげに声を弾ませ、再びクツクツと笑い始めた。
それに返事する事なく通話を断ち切った十夜。
そのまま携帯を手にし、再びポケットに納める。
「………」
携帯が切られた後、室内には何とも言い表し難い空気が漂っていた。
シンは今頃、幹部達と一緒に声高らかに笑っている事だろう。
その表情が想像出来るから余計に腹が立つ。
明日、あたしは抗争に参戦出来ない。
奴等に今日の仕返しが出来ないんだ。
充くんの仕返しも出来ない。
それが物凄く悔しくて。
物凄く……腹立たしい。
でも、どんなに悔しくても我慢しなければいけないんだ。
あたしが動けば十夜達に迷惑が掛かるから。
これ以上みんなの負担になる訳にはいかない。
だから──
「……っ、うわっ!」
物思いに耽っていた時、突如あたしを襲ったのは何とも言えない浮遊感。
「ちょ……」
女らしからぬ声を発したあたしは気付けば皆を見下ろしていて。
「……貴兄?」
宙ぶらりんになったまま振り返れば、後ろには貴兄がいた。
そこで漸く貴兄に抱え上げられたのだと気付く。