俺様黒王子とニセ恋!?契約
会議が終わって立ち上がる篤樹に、橋本さんが声を掛けた。
一言二言、声を交わして、そのまま並んで歩き出すのを見て、さすがに焦れる想いが限界を超えた。


「片桐さん!」


まだお互いの部の同僚もいる中で、篤樹を呼び止めた自分がすごいと思った。
一瞬とは言え、かなり注目を浴びて顔から火が出るほど恥ずかしかったけど、結果的にそれが功を奏した。


私と篤樹が同じプロジェクトチームのメンバーなのは、みんな知ってる。
私が声を掛けても仕事の話としか思われず、それ故、篤樹は私を無視することが出来ないのだ。


ビクッと肩を震わせて、篤樹はその場に立ち止まった。
そして、微妙な間を置いてゆっくりと振り返る。


「……何?」


篤樹の隣でつられて立ち止まった橋本さんが、呼び止めた私をチラッと横目で捉えた。
一瞬困惑した表情を浮かべた後、篤樹を見上げる。


「あの……片桐さんにお話したいことがあるんです」


プロジェクトのことで、と言わなかったのは、橋本さんには席を外して欲しかったからだ。
それを聞くと、橋本さんはわずかに私を気にして躊躇う様子を見せながらも、篤樹に小さく頭を下げて同僚の波に紛れるように会議室から出て行った。


二人だけになると、さっきまで騒がしかった会議室に気まずい沈黙が立ち込める。
篤樹はやっぱり私から目を逸らしたままで、ガシガシと頭を掻いた。
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