俺様黒王子とニセ恋!?契約
ちょっと遠慮がちにそう言うと、篤樹は何度か瞬いた。
そして、ガックリと頭を垂れる。


「なんだよ、それ……」


そのままめり込みそうになる篤樹に驚いた。
だけど……篤樹があまりに必死に言い訳しようとしたせいで、あんなに言い聞かせたのに、私の胸にはかすかな期待が湧き上がって来てしまう。
それをどうにか押し隠そうとして、私は、でも、と言葉を続ける。


「記憶に残してもらえてるなんて思ってなかった。あんな情けない告白でも、私には精一杯の勇気を出した思い出だから。もちろん、篤樹にとっては何十、何百分の一の経験でしかなかったろうけど……」

「……そこまで多くねえよ」

「……再現されて思い出してくれたってことは、少しは覚えてくれてたからだよね……?」


そう言いながら、彼を探って窺うように見つめてしまう。


声に出して認めてくれなくてもいい。
ただ、ほんのわずかでも、頷いてくれたら嬉しいと思っただけだ。


篤樹の反応を一瞬でも逃したくなくて、私は篤樹の一挙手一投足に意識を凝らした。
篤樹は私から目を逸らして、そっぽを向いて、しばらく逡巡していたけれど。
目を伏せると、ボソッと一言呟いた。


「……少しは、どころじゃなくて、強烈な印象だったよ」


私が願う以上の言葉を返してくれた。


信じられなくて、素直に嬉しくて、ジーンとしてしまった。
その一言だけで、高校生の時の私のなけなしの勇気が報われたような気がする。


なのに、そこはさすが篤樹だ。
そう簡単には私を喜ばせてくれない。
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