俺様黒王子とニセ恋!?契約
「用は済んだか? なら俺、仕事戻るぞ」


一言だけそう告げて、会議室のドアに向かって歩き出す篤樹に、


「待って!」


そう叫んで、もう一度呼び止めた。
黙って半身を反らすように振り返る篤樹に、私は想いの丈を吐き出した。


「昨日も言ったけど、ずっと好きだからっ」


篤樹がピクッと眉を動かす。


「あの時のままの私じゃない。私、今度は本当に逃げないから!」


こんなに必死に伝えようとしてるのに、篤樹は私を見遣るだけで表情を変えない。


「『社内恋愛はしない』って。篤樹が主義覆すくらい、私のこと好きにさせるからっ……」


そう、私も橋本さんに負けない気持ちでぶつからなきゃ。


この恋は運命だから。
簡単に諦めてはいけない。
目に見えている限界の先まで、私の全部を貫く。


なのに。
篤樹は唇を閉じたまま、目を伏せて肩を竦めた。


「しないよ。もう二度と、社内恋愛は」


篤樹の頑なな意志に働きかけることも出来ない。
本当の意味で言いようもなく焦らされる。
それでもなお、言い募ろうとする私に、篤樹は静かに呟いた。


「……一年前。前の彼女と別れたんだ。同じ社内で後輩だった彼女と」


感情を押し殺すような篤樹の声に、ドキンと心臓が騒ぐ。
私の視線をまっすぐ受け止めたまま、篤樹は先を続けた。
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