俺様黒王子とニセ恋!?契約
わずかに震えたその声に、泣いているのかと思うほどだった。
思わず、篤樹、と名前を呼んだ。


けれど、もう次の瞬間には、篤樹は全てを吹っ切ったように顔を上げた。
彼らしく、窓から注ぐ太陽の光を浴びて、堂々と。


そして、


「だから言ったろ。俺じゃ本物にはしてやれない。止めとけ、俺なんか」


自嘲気味の声色で、私を宥める。たしなめる。
心の奥に封印したはずの彼女のことを、私に話してくれた篤樹の想いが、私の心に染み入って来る。


もしかしたら、黙って頷くことこそが、彼の為になるのかもしれない。
このまま自分勝手な想いをのみ込んで、諦める方が幸せなのかもしれない。


だけど……。
再び私にしっかりと背を向けようとした篤樹に、私は腕を伸ばした。
そのままネクタイをグッと引くと、虚を突かれて目を丸くした篤樹が引き込まれるように背を屈めた。


下から引く力に抵抗を失って迫って来る篤樹の顔に、私は喉を仰け反らせて、ほんの少し背伸びをした。
私が受け止めるように、唇がぶつかった。
篤樹が唇の先で小さく息をのむのが気配で伝わってくる。


背を起こそうとする篤樹の抵抗を打ち消すように、更にネクタイを引く。
そうしてもう一度、私の方から強く押し当てて、ネクタイを解放しながら、私も踵を床に戻した。
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