俺様黒王子とニセ恋!?契約
「似てたかもしれないけど、私は逃げない。篤樹の前の彼女とは違うのっ……!」


それを、言葉だけじゃなく態度で、行動で、篤樹に見せつけなきゃいけなかったのに……。


身体が、思うように動かない。
結局口だけになって言い逃げる自分が情けない。
私は両手で顔を覆って、何も言えずに俯いた。


エンジンのかかった、小刻みに振動する車の中で、微妙な沈黙が過る。
必死に堪えているのに抑え切れない私の嗚咽が響く車内で、篤樹は小さな息をついた。


そして。


「……わかってるよ」


ボソッと小さな声で呟いて、私の頭をポンポンと叩く。
そんな仕草に、私は涙を浮かべた瞳を篤樹に向けてしまった。


暗い車内に、一つだけ灯った工場の明かりが挿し込む。
ぼんやりと浮かび上がって見える篤樹の顔に、微かな笑みが浮かぶのを私は見つめた。


「お前はアイツとは違う。……そんなの、最初から知ってる」


ゆっくりと言い聞かせるようにそう言って、篤樹はまっすぐ前に視線を向けた。
そして、私の言葉を待たずに、グッとアクセルを踏み込む。


「いいから、寝てろ」


同じ言葉を繰り返して、それ以上私の言葉を遮断した。


もっと言いたい。
言い訳にしか聞こえなくてもいいから、もっと篤樹に私の言葉を聞いて欲しいのに。


篤樹は、ずっと前を向いたまま。
私の心も身体も助手席に繋ぎ止めたまま。


身体の疲れにのみ込まれて、私はいつしか目を閉じていた。
そしてそのまま、その夜の記憶は途絶えた。
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