俺様黒王子とニセ恋!?契約
なんでそんなに優しいの……?


「っ……」


鼻の奥の方がツーンとする。
歯を食いしばって堪えるのに、ヒクッとしゃくり上げてしまった。


「……なんだ。また泣いてるのか」


篤樹が私に視線を落とすのがわかる。


「な、泣いてない」


涙の痕跡を全部隠すように、私は更に布団を引っ張り上げる。
でもきっとバレバレなんだろう。
クスッと小さく笑う声が耳に届いた。


「家の中の物は自由に使ってくれていい。腹減ったら、適当に食って」

「……」

「合間見て、様子見に帰って来るから。なんか欲しいものあるか?」


布団に顔を隠したままで、首を横に振って返事だけはした。
篤樹が再び小さな息をつくのが聞こえた。


「……澪。頼むから大人しくしててくれよ」


そんな声にまでキュンとしてしまう。
私は返事の代わりにズッと鼻を啜り上げた。


ギシッとベッドが軋んだ。
軽くマットが沈むのを感じる。


そして……。
額に、ふわっと温もりを感じた。


「……っ」


その正体が何かわかってしまうから、私は布団を被ったままで短く息をのむ。
温かく優しい感触は、余韻だけを残してすぐに離れていった。


「……行ってきます」


そんな短い言葉を残して、篤樹は一人、部屋を出て行ってしまった。


私の鼓動を大きく乱したままで。
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