俺様黒王子とニセ恋!?契約
口元に手を遣ってブツブツとそう呟くと、篤樹はチェストの上から車の鍵を取り上げた。


「え? あっ!」


篤樹の言葉でやっとそこに意識が向く。


そうだ。
みんなも篤樹と同じように一度帰宅してから出直して来るのなら、作業しやすい楽な服装で集まるはずだ。
この服じゃ私も動き辛いし、何より仕事を休んで設営にだけ出向くのに、オフィス仕様の服装じゃおかしいに決まっている。


「澪、お前のマンション寄ってやるから、楽な服に着替えて来い」


そう言って先にリビングを出る篤樹の背を慌てて追いかける。


「ご、ごめんね。面倒なことさせて……」


私が後からリビングを出ると、いや、と言いながら篤樹は壁のスイッチを押して電気を消した。
そして再び私の先に立って歩く。


「余計な誤解されるよりマシだろ」


背を向けたままでボソッと呟かれた一言に、一日中浮足立っていた気持ちがわずかに沈むのを感じる。


だけど私は俯きそうになるのを堪えて、篤樹の後について彼のマンションから出た。
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