俺様黒王子とニセ恋!?契約
『明日、弓道場に行ってごらん?』


昨夜、静川さんから電話をもらった。
クスクス笑う声が、私にもたらしてくれたその情報。


『この大雪の中、高校の部活も休みだって言うのに、篤樹は行くらしいから』


呆れたようなその声に導かれて、私もこの大雪の中、この姿を見たくてここまで足を運んで来た。


凛とした冷たい冬の空気の中、篤樹の弓構える姿が更に空気を研ぎ澄ます。
ドアの外、離れた場所からでも『ギリッ』と弓がしなる音が聞こえて来る。


篤樹はまっすぐ的を見据えて、一射放った。
バシッと空気を切り裂くような音がして、矢が的の真ん中を貫く。
それをジッと見据えたまま、篤樹は静かに構えを解く。


静川さんも見惚れると言った、篤樹の『残心』。
もちろん私は彼から目が離せない。


的までの地面は、通って来た校庭と同じように真っ白な雪の絨毯で覆われている。
彼の白い道衣に白い息。
袴の黒が気にならないほど、彼は真っ白い世界の中心に佇んでいた。


篤樹が、フウッと小さく肩で息をした。
彼の口から漏れる息が、大気に消え入って行く。
そのまま次の矢を手にして、篤樹はフッと目を伏せた。
そして。


「……コソコソ見てないで、入って来たらどうだ?」


はっきりとした声でそう言って、ゆっくりと私が身を潜めた出入口に顔を向けた。


「あ……」


ドクンと心臓が大きな音を立てて、私は篤樹に姿を晒したままで凍り付く。
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