俺様黒王子とニセ恋!?契約
「まあ、こんな吹きっ晒しの道場じゃな。ストーブじゃ、大した暖にはならないか」


そう言いながら、変わらないちょっと皮肉な笑みを向けてくれる。
篤樹に誘われて、私は彼にとって神聖な場である道場に足を踏み入れた。


いつの時代から使ってるのか……と思う古い大型のストーブに、赤い火が灯っている。
篤樹の言う通り、半屋外の道場の空気を温めるほどの十分な効果はない。
それでも、上に置かれたヤカンから吹き上がる蒸気を見るだけでもホッとする。


篤樹はその前に私を連れて行くと、


「……そろそろ来る頃だと思ってた」


自分もストーブに手を翳しながら、そんな言葉をボソッと呟いた。


「え……?」


思わず顔を上げて、頭一つ分上にある篤樹の顔を見つめてしまう。


「静川さんから、聞いてたの?」


そんな私に、篤樹は面白そうに目を細めた。


「いや。……静川に伝えさせたのは俺だからな」


そんなことを言って、篤樹は、私の前に姿勢良く立ちはだかった。


「ど、どういう……」


篤樹が言っている言葉がよくわからない。


「こんな雪の日でも、お前が来るか来ないか。……心のどこかで賭けて、待ってた」


ただ呆然と見上げると、篤樹は白い息を吐きながら肩を揺らして笑った。
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