俺様黒王子とニセ恋!?契約
会議が終わって、出席者全員がガタガタと音を立てて椅子から立ち上がる。
今日の議題の立案者である篤樹に、うちの部長が直々に声をかけるのを横目に、次々と廊下に出て行く。


機材の片付けの為に残る橋本さん以外は、仕事に取り掛かる為に、急ぎ足で会議室を抜けて行った。
そしてそれは私も同じだ。
なのに。


「……四宮さん」


ドアから出ようとしたタイミングで、篤樹の低い声に呼び止められた。
一瞬ドキッとして、不覚にも足を止めてしまう。
会議室に残った橋本さんが、一瞬気にするようにこっちに目を向けたのがわかる。


「お疲れ様でした」


誰が聞いても自然な挨拶を口にして、私は篤樹の前を通り過ぎて廊下に出た。
数歩歩いたところで、ドアが閉まった音を耳にした。


その途端。
後ろから、グイッと腕を掴まれた。
そのまま引き寄せられて、慌てて振り返る。


「澪。ちょっと来い」


『澪』……。
彼の唇が紡ぐ自分の名前にキュンとしながら、私は抵抗する間もなく非常階段の踊り場に引きずり込まれた。


「なっ、何するんですかっ!!」


所構わず抗議したら、地上まで吹き抜けの非常階段に、思いの外声が反響した。
それに慌てて、私はグッと唇を閉じる。
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