俺様黒王子とニセ恋!?契約
ダメだ。もう話し合いどころじゃない。
なんて言うか、もういろいろヤバくて、それどころじゃない。


「バ~カ。誰が帰るか。せっかくのウィークエンド。自分の女の部屋に来てるのに。泊まってくに決まってんだろ」


なのに篤樹は飄々と宣言して、もう凶器としか言えない、妖艶な色を湛えた瞳で私を捕らえた。


「見せろよ。お前の感じてる顔」

「っ……」


大事な大事な淡い恋の思い出の相手から、そんなこと言われたら――。


篤樹の声も仕草も、温もりも、私から冷静さと理性を奪い取る強力な麻薬になる。
唇を奪われたら、もうその後は何も考えられなかった。


夜の帷が降りて、照明を消した部屋には、カーテンの隙間から月明かりが射し込んでくる。
篤樹の乱れた呼吸に、同じように乱れる私の息が絡み合うのが、とても不思議な感覚だった。


篤樹が私に与えてくれるのは、綱渡りのスリルに満ちたゲームだ。
どんなに甘い刺激をくれても、それは恋ではない。
痛いくらいわかっているのに、私の心も身体も彼に乱される幸せを感じてしまう。


こんな堕落した付き合い方じゃ嫌なのに、強く求められると拒めない。
どんなに経験不足でも、私が今二十六歳の大人の女で、高校生ではないからだ。


私と篤樹の心は、明らかに不協和音を奏でている。
なのに少しでも共鳴する日が来るんじゃないか、と淡い期待をしてしまう。


大事な恋の思い出に泥を塗る。
そんな形の幸せを、求めたくなんかないのに。
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