俺様黒王子とニセ恋!?契約
「あの……。高校時代に、聞いたことあるから。疲れた時は、甘いものバカ食いするって」


彼に渡したのは、かなり久しぶりに焼いたクッキーだった。
手にしたクッキーを目を丸くして見つめる篤樹を見ていると、妙な気恥ずかしさがこみ上げて来た。


「……甘いものバカ食いしてたのは、高校時代まで。今は大人だし、酒に走るよ」

「あ……。ご、ごめん。そうだよね……」


私ったら。なんて思考がワンパターンなんだろう。
篤樹が高校を卒業してから、もう十年経つんだ。
あの頃のように、甘いものでストレス解消とかしてるわけがない。


「……けど、サンキュ。ありがたくいただく」


続いた篤樹の言葉に、思わず顔を上げた。
目を丸くして凝視すると、篤樹の方が居心地悪そうに私から顔を背けた。


「……澪」


少し沈黙を保った後、篤樹がボソッと私の名前を呟いた。
今は私も、『オフィスなのに』なんて無粋なツッコミをするつもりはなかった。


けれど。


「……俺の疲れが一瞬で吹っ飛ぶ方法は、他にあるんだけど」

「は?」


聞き返した私を手招きして、篤樹が私に耳打ちした。
途端に、私の顔がぼっと熱を持つ。
篤樹は、私の反応にニヤリと笑った。


「……今夜、いい?」


篤樹の指が、私の髪をサラッと梳く。
その手が頬に降りて来て、意味深に頬を撫でた。


ドキッと鼓動が跳ね上がる。
思わずコクンと頷きそうになった時、会議室の外の廊下が騒がしくなった。
隣の会議室から廊下に出て来る人の気配が感じられる。
ハッとして踏みとどまった。


「ばっ、バカッ……!!」


私は篤樹を突き飛ばすと、急いで会議室から逃げ出すのだった。
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