俺様黒王子とニセ恋!?契約
そんな言葉を嬉しいと思っちゃいけない。
篤樹が本気で私を好きなわけじゃないんだから。


「は、橋本さんも平等に相手してあげれば? そもそも私、最初からそんなつもりじゃ……」

「平等に、って。……あのなあ。言っとくけど、俺はこれまで複数同時進行なんかしたことないし、する気もない。澪だけで十分だよ」


わずかな苛立ちを感じさせる言葉に、ドキッと胸が高鳴った。
無意識に顔を上げて、篤樹を見つめてしまう。


「だ、だってこの間……」

「時効何ヵ月?ってやつか? 酔った勢いでやったのは、お前が初めてだよ」

「っ! 嘘」

「なんで嘘だよ。……あの時はお前が決めつけたいみたいだから、流しただけ。正直なとこ、あの朝は俺だって混乱したんだ。まさか同じ会社で一緒に仕事するヤツと。……高校の後輩と……」


私の視線から居心地悪そうに顔を背けて、篤樹は一歩踏み出すと先に立って歩き始めた。
私は慌ててその背を追う。


「あつ……き」


思わず、名前で呼びかけてしまう。
篤樹が足を止めて、私を振り返った。
そして、口角を歪めて笑う。


「初めてオフィスで名前で呼んだな」

「……!」

「それでいい。オフィスだからって、敬語崩して会話してるのに『片桐さん』じゃ、余所余所しい」

「……良くない」


俯いて、そう呟いていた。
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