ビターな洋菓子店
響さんに想いを寄せるお客さんは数え切れない。働く前からもそれは知っていたし、それを心底嫌そうに対応していたのも知っている。
だから、害虫スプレーというポジションを与えられた時は何故か納得した。
箱詰めと簡単な掃除以外する事のない私が雇って貰えた最大の理由だ。
「 鬼で結構 」
現に私の効果は実感している。
恋人でもないただのアルバイトだけれど、いつも一人だった響さんの横に女が立っているというだけで、何故か遠慮する女性客が増えたのだ。
そのお陰で存在意義を感じているというのはもちろんお客様には内緒だけれど。
「 いらっしゃいませ 」
私の小言が響く店内で、小さくカラン、とドアベルが音を立てた。