ビターな洋菓子店
あの日は最悪な天候だった事を覚えている。
そう、あれは涼しくなってきたかなという11月1 日、私の誕生日。
特別だと感じる事の出来ない大切な日に、嵐の中私は一人街中を彷徨っていた。
「 ‥‥‥っ、ないか‥‥ 」
台風直撃という予報通り、役に立つはずもない傘を見れば一目瞭然、こんな悪天候に律儀に店を開けているケーキ屋さんはどこにもなくて。
いつも通りの一人ぼっちの誕生日を唯一彩ってくれるはずのケーキすらも買えずに私は家路へと踵を返そうとした。
( この匂い‥‥‥‥ )
その時、豪雨の中でも微かに甘い香りが私の足を止めた。
そう、それは紛れもなく今私がいる洋菓子店 ” bitter ” から香る、甘い香りだ。