ビターな洋菓子店
その瞬間、重い足取りだったはずなのに私は甘い香りのほうへと駆け出していて、カラン、と小さく鳴ったドアベルと店内に心がパァっと明るくなった。
路地裏にあるガラス張りの小さな洋菓子店。
店の雰囲気を伺うこともなく、引いた引き戸の向こうには毎日隣にいる響さんが少しばかり驚いた表情でずぶ濡れの私を見つめていた。
「 いらっしゃいませ 」
焼き菓子のバターや、フルーツの甘酸っぱい香りに安心に近い涙が頬を伝った。
「 バースデー‥‥ あの、‥バースデーケーキはありますか? 」
開いているだけでも珍しいのに、bitterのショーケースには沢山のスイーツが並んでいて。
「 ホールなら 」と単調に答えた響さんに私の胸は高鳴った。
「 一つください!」
「 ちょっと待って 」
「 いくらですか!? 」
「 だから待ってって 」