ドルチェ セグレート
「こういうのは、どっちかというと遥が向いてるんだ。俺は、レシピ通りに仕上げるだけで」
 
胡坐をかいて座った彼は、手を止めたまま呟くように続けた。

「一から生み出す才能は、正直、俺にはないと思ってる……。遥という人間を毎日隣で見てるとそう思わされるんだ。でも、唯一、デコレーションは得意だから」
 
そう話す神宮司さんを、立ったままの私は黙って見下ろす。
上背のある人が座っているから、とかではなくて、なんだか神宮司さんが小さく見えた。
それは、彼の心の弱った部分を感じたからだ。
 
私には、遥さんと神宮司さんの違いなんてわからない。

ここのスイーツはどれを食べても美味しいし、見た目だって素敵だ。
ということは、神宮司さんだって、遥さんに負けてないはずなのに、プロの目から見たらやっぱりなにか違うものが見えるんだろうか。
 
驚嘆していると、神宮司さんはおもむろに箱を開き、その中に視線を落とす。

「役割分担みたいなもんさ。遥が考えたものを、俺が仕上げる。もちろん、たまには俺も創作するけどね。こんなふうに」
 
彼のもの悲しく笑う表情を見て、私も流れるように箱の中身に目を向けた。
 
ケーキはふたつ。ひとつはこの前のアンサンブルのお礼にと貰ったものに似てる。
もうひとつも、同じようにチョコレートベースみたいなスポンジの色。
見た目では、どちらもシンプル系で一見余所にもありそうかと思わせるけど……。

「……遥の才能に惚れ込んでる。でも、同時にちょっと妬んでるんだ。アイツと比べて、落ち込んで……。けど、俺は作ることをやめられない」
 
神宮司さんが吐露した胸中を聞き、思わず目を見開いた。
そして、自然と口からついて出る。

「やめないで」
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