ドルチェ セグレート
「いただいても、いいですか?」
「え……。あ、ああ」
 
そうだとしても、私は私の仕事を全うしなくちゃ。
引き受けたからには、と、責任感を背負いながらふたつのケーキと向き合った。
 
ひとつは、やっぱり前に貰ったケーキとほぼ同じ。
でも、食感がちょっと違う。ザクザクとした歯ごたえが残る。

「これって、前にいただいたものですよね? でも、中になにか……」
「うん。ほうじ茶ってあんまりないかと思ったからね。でもそれだけじゃインパクト薄いかと思って、上部に散らしてたナッツを増やして、中に入れてみたんだ」
「なんか面白いです。それに、食べごたえがある気がします」
 
もぐもぐと動かす口を手で隠しながら、ゆっくりと飲み込む。

やっぱり、神宮司さんが作るケーキは私を幸せにしてくれる。
 
口内に残るショコラとナッツの香りを堪能しつつ、再確認した。
休憩室内の小型冷蔵庫から水のペットボトルを差し出される。
お礼を言って受け取った私は、一度リセットするのに水を口に含んだ。

「じゃあ、次はこっちをいただきますね」
 
ペットボトルを置いて、再びフォークを手にする。
神宮司さんが真剣な眼差しを向ける中、スクエア型の黒いスポンジにフォークを入れた。
 
見た目とフォークで掬った雰囲気からは、ティラミスに類似してる。
今でもなお、向けられる熱視線のなか、ぱくりとひとくち頬張った。

「こっちは……チョコかと思ったら、コーヒーフレーバーだったんですね。ゼリーも入ってる?」
「そう。季節は夏だったから、そんな感じで考えてみたんだけど……どう?」
 
緊張した面持ちで、低く静かに聞かれる。
私は水をひとくちコクリと喉に流すと、再度、神宮司さんと向き合って笑った。

「美味しいです。ゼリーの感じも、これ以上多かったらちょっと違和感感じるだろうし、クリームとの配分はいいかと。スポンジの苦みと甘さのバランスも好きです」
 
慈しむような思いで、手元のケーキを見つめる。

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