ドルチェ セグレート
幾度となく、私を元気づけてくれた。
ランコントゥルのケーキもその中のひとつ。
 
だからこそ、思ったことを率直に。素人の私の意見なんて知れてるけど、それが彼の望みだと思うから。

「ただ……せっかくなので、見た目をもう少し派手に……というか、インパクトあるようにしたら、もっといいのかもしれませんね」
「インパクト……それなんだよなぁ」
 
腕を組んで頭を抱え込んでしまった神宮司さんに、胸が苦しくなる。
 
本当は、もっと具体的なことを言えたり、手伝えたりすればいいんだけど……。
それができないことがもどかしい。

「色味自体が地味だからなぁ。かといって、単純に飾り付けだけ派手にしてもな……」
 
顎に手を添え、ブツブツと考え込む神宮司さんを横目で見つめる。
 
こんなに真剣に仕事してるときに、プライベートな話題を持ち込むなんて無粋だ。
 
結局、時折交わす言葉は始終ケーキについての話。約一時間経った頃、遠くから扉の閉まる音が聞こえた。
玄関は、さっき神宮司さんが鍵を掛けていた。ということは、裏口しかない。
 
裏口から誰かが来たのだと察したときに、私の脳裏には彼女が一番に思い浮かぶ。
神宮司さんは、アイデアを纏めるのに集中していて、その音には気づいてないようだ。
 
もしも、またあの子が戻ってきたんだとしたら……。
 
想像して、鉢合わせになることが怖くなった私は、慌てて声を掛ける。

「あのっ」
「慎吾、もう来てたの……って、あれ? キミは」
 
覚悟が出来てないうちに開かれた休憩室の扉に、心臓が止まる思いで振り返る。
すると、そこにはジーンズ姿の遥さんが、目を瞬かせて立っていた。

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