ドルチェ セグレート
しばらくは、自分の生活だけに集中しよう。
そう決めたあの日から、三日。
神宮司さんとの連絡は一度だけ。
あの火曜日に、向こうから【今日はありがとう】とひとことメールが着た。
それに対し、【応援してます】という内容の返事を送って、メールは途絶えた。
「最近売れてますよねぇ」
「え? なに?」
ボーッとしてたところに、話しかけられ現実に引き戻される。
隣を見ると、レジを終えた沙月ちゃんがこっちを見ていた。
「河村さん、なんかここ最近ボーッとしてません?」
「え? そんなことないよ! で、ごめん。なんだっけ?」
慌てて取り繕って話をもう一度聞くと、沙月ちゃんは視線で商品棚を指して答えてくれた。
「いえ、大したことないんですけど。あのスイーツを象った雑貨シリーズが売れてるなぁって。今のお客さんも贈り物にして行きましたし」
「ああ、うん。予想以上に評判いいみたい。他の店舗でも品切れしてるものもあるみたいだし。確かに可愛いもんね」
ふたりで並んで正面の棚を見て頷きながら、ふと思い出す。
あ。そういえば、次の新商品ラインナップの資料に目を通さなきゃ。
休日の昨日に纏めようと思ったんだけど、それどころじゃなくて……。
「ごめん、沙月ちゃん。ちょっとだけいい? 裏に行って資料持って来たくて」
ひとこと断ってバックヤードへと入る。
自分のカバンを手に取ってテーブルに置き、資料が入っている茶封筒を探す。
あれ? 確かに今日、持ってきて……。
探しているのはA四サイズの資料だ。
いくら厚みはないとはいえ、その大きさのものが見つけられないなんてことはありえない。
焦る気持ちを抑えて、ゆっくりと手を動かしてもう一度カバンを探る。
けれど、中からは別のプリント類しか出てこない。
いよいよ本気でマズイと、一度息を吐いて、今朝の行動を思い出す。
朝、少し寝坊して、だけどテーブルの上の資料は抱えて出た。それは間違いない。
そのあとは、移動中に資料を見て、途中で諏訪さんから業務メールが着て……。
「あぁっ」