ドルチェ セグレート
食欲はまだあまりないまま、休憩に入る。
前半で発覚した資料紛失の件も、とりあえず資料は確保したものの、それが誰かの目に触れた可能性があるということだけで、当然私は落ち込んでた。
諏訪さんも、今回の資料は大したことないもののようには言ってくれた。
だけど、結果が問題じゃなく、そういうことをしてしまったという失態に気落ちしてしまう。
重い溜め息を無意識に吐いたのは、今日これで何度目だろうか。
溜め息を落とした先には、昨日買ったチョコレート。
昼食の代わりにテーブルの上に置いたチョコを、ひと粒口に放り込む。
ビターチョコなだけに、甘みと同時にほろ苦さも拡がっていく。
その苦みが、なんだか今は心の傷を抉られる気分だ。
いつかの日、神宮司さんが、私がすごく美味しそうに食べるって褒めてくれたっけ。
でも、きっと今は、そんな表情欠片も出来てないんだろうな。
長方形の箱に、ひと粒ずつ仕切られて並ぶチョコレートを眺め、苦笑する。
すると、その箱を遮るように手が伸びてきた。
びっくりして顔をあげると、すでにチョコを口に含んで動かす諏訪さんが立っていた。
「へぇ。このチョコ、美味いな」
「勝手に食べないで下さいよ。しかも、諏訪さんは就業中なのに」
「固いこというなよ。資料提出、延ばしてやったのは誰だっけ?」
「……もうひとつ、どうぞ」
さっきのミスがあるくせに、つい手が正直に動き、箱を隠すように取り上げる。
すでにひとつは食べた諏訪さんが、わざとらしく高圧的な態度で言うことに、私は手のひらを返したように箱を差し出した。
八粒入りのチョコレートの残りは六粒。
諏訪さんはまたひとつ指で摘まみ上げると、それを簡単に口の中に入れてしまった。
ああ! 確かにいつでも買いに行けば手に入るチョコではあるけど!
私にとっては、ひと粒数百円する貴重な高級チョコなのに!
もっと味わって食べてよー!
悲痛の叫びを飲み込んで、恨めしい視線だけ諏訪さんに送る。
でも、彼はそんなことお構いなしに喉を上下させて呆気なく飲み込んでしまった。
確かに、元々は自分で食べるためではなかったけど。
でも、手元に残ったチョコに罪はないし、せめて大事に、味わって食べようとしてたのに。
恨み節は延々と私のなかで溢れ出る。
そんななか、諏訪さんはどこまでもマイペース。