ドルチェ セグレート
「この間、ここのバイトの子に聞いたんだけど。河村のオススメケーキ屋の話。今度、そこ案内してよ」
「へっ? バイトの子? 案内って……」
 
突拍子もない話題に目を瞬かせる。

言われた言葉を整理すると、バイトの子に当てはまるのは志穂ちゃんしかいない。
そして、志穂ちゃんが話してたということは、必然的にそのケーキ屋は……あそこしかありえない。
 
なんで避けようとしてるときに限って、ランコントゥルに引き寄せられるかのようになるんだろう。
前回も志穂ちゃんに連れていかれて、今回は諏訪さんって!
 
内心冷や汗を流しつつ、平静を装い薄らと笑みを浮かべる。

「いや。諏訪さん、甘いもの好きなイメージないですけど」
「そんなことないって。ああ、それに、もうすぐ知り合いが誕生日なんだよ」
「へぇ。彼女ですか?」
「三人目のな。こう何人もいると、誕生日なんて覚えられなくて大変だ」
「……なにバカなことを。ひとりで言っててください」
 
くだらないジョークをやり過ごそうとしたはずが、逆にうまく交わされてしまう。
 
本当に、諏訪さんの彼女が何人いようと関係ないけど、私があの店に行くことだけは大問題。
どうにか阻止できるものならしたいんだけど……。
 
むーっと口を尖らせて険しい顔をしながら、打開策をひねり出そうとする。
すると、諏訪さんが「ふっ」と笑いを零した。

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