ドルチェ セグレート
「おう。なに、しけたツラしてんだよ。ほら、行くぞ」
気の進まないことに関しては、その時間を迎えるまで、あっという間だ。
「……はい。こっちです」
明らかに思い空気を背負った私を一蹴して、諏訪さんは飄々としながら先を急かす。
私はというと、そりゃ気持ちも滅入るもので……。
ランコントゥルを思い出すだけで、神宮司さんと――あの子のことがチラついてしまう。
だって、またあの子がいたら?
それを目撃してしまったら、今度こそ完全ノックアウトだ。
そう思いつつも、気にしてやまないわけは、彼に好意があるからだけじゃなくて……。
神宮司さん自身の、苦しみの現状が気になるから。
コンテストというものの日時も聞かずに別れてしまったけど、あれからどうしてるだろうか。
私の意見なんか特に役にも立ってないだろうけど、考案はうまく纏まったのかな?
納得のいくものに辿り着けたかな。
素人なのに、そんなことを気にしては、彼へと思いを募らせる。
けれど、それと同等……いや、僅かに勝って、彼女の影が頭の中でチラついてしまって。
連絡をしようと思えば、簡単に出来るのに。
それをしない私は、結局お店に顔を出すことも気が引けて。
……なんて、ウジウジとしてる間に、まさか諏訪さんに動かされる羽目になろうとは思わなかった。
隣で地下鉄に揺られてる諏訪さんを盗み見て、未だに信じ難い現実に溜め息を吐く。
わざと歩く速度を緩めれば、ランコントゥルは閉店して、神宮司さんとは顔を合わせずに済む。
だけど、諏訪さんだって、本当に行きたいんだろうし、オススメ店には変わりないし……。
そう思うと良心が痛んで、いつもと同じペースで歩いていた。