ドルチェ セグレート
「へぇ。こんな住宅街なんだ。あ、あれか?」
「そうです。赤い看板の」
「ふーん。洒落てんな。確かに女子が好きそうだ」
 
ここから、諏訪さんが先導するように前を行く。
 
それこそ、志穂ちゃんのときにも試みたけど、私は外で待機してたい。
でも、諏訪さんはそれを認めなさそうだというのがわかるから、半ば諦めて後を追う。

諏訪さんが扉を開けて一歩足を踏み入れると、私はさらに俯いてそろりと入店した。
「いらっしゃいませ」という声が、女性のもので安堵する。

いや、奥には絶対彼がいるはずだから、完全に安心はしきれないんだけど。

「品揃え、少ないな。それだけ売れてるんだな、ここ」
 
前屈みになってショーケースを眺め、諏訪さんが感心するように漏らした。
 
びっくりした。最初、志穂ちゃんと同じようなことを言うのかと思った。
でも、後に続く言葉で、品揃えが少ないっていうことに悪意はないってわかったから。
 
諏訪さんの背中を見つめていると、突然振り返り尋ねられる。

「河村の好きなものは?」
「え? 私はショコラ系が好きですけど。でも、諏訪さんが好きなものを選んだ方が」
「とりあえず、紹介者のオススメを選んだ方が賢明だろ?」
「ああ、なるほど」
 
私の好物を確認したのち、再び背を向けた諏訪さんは店員に数個のケーキを注文する。
後方からその光景を眺め、諏訪さんが選んだケーキを何気なくチェックする。
本当に私好みのショコラ系が、多くを占めてて笑ってしまった。
 
さ、あとは箱詰め待ってお会計したら帰れる。
神宮司さんと顔を合わせたりすることになる前に、早く店を出たい。
 
そわそわと落ち着きなくいると、箱詰めしている女性に向かって、諏訪さんが声を掛ける。

「すみません。こちらに、神宮司慎吾さんって方はいらっしゃいますか?」

それに続く言葉に、私は愕然として目を大きくさせる。
なにかの聞き間違えじゃないかと、数回目を瞬かせた。

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