ドルチェ セグレート
今、なんて……? なんで、諏訪さんが神宮司さんを?
 
全く理解できない状況に、混乱を通り越して頭の中が真っ白。
 
呆然と立ち尽くし、諏訪さんの後ろ姿を見つめる。
あまりに予想外の出来事だったため、視野が狭くなっていたとしか言いようがない。
 
――彼が現れたことに気づくのが遅れたのは。

「お待たせしました。私が神宮司ですが」
 
その声に、弾かれたように顔を上げる。
すると、向こうも伏せてた目を上げ、私の存在に気づいた瞬間、目を剥いのがわかった。
 
互いに時間が止まったように、視線を交錯させる。
その時間を動かしたのは、視界に割り込んできた諏訪さんだ。

「あなたですか。初めまして。諏訪仁成と申します」
 
一体なにを……?
 
ただただ、何も言えずに目の前のふたりを見つめるだけ。
私の視線を背負いながらも、諏訪さんは言葉を続ける。

「単刀直入に申し上げますが、ウチの河村を、振り回さないでいただけますか」
「……は?」
 
物腰柔らかく話しかけるのは、いつもの仕事中の諏訪さんだ。
だけど、内容があまりにも突拍子もなくて、神宮司さんが声を漏らすのも無理はない。

「ちょ、ちょっと、諏訪さん! なんですか、それ!」
 
さすがに、もう傍観するだけじゃいられない。

一歩踏み出し、諏訪さんの横顔に訴えかける。
それなのに、動揺してるのは私だけで、諏訪さんはちっとも狼狽する様子すらみせない。
 
むしろ、私の存在を無視するようにこちらに一度も目を向けず、神宮司さんと対峙したまま。
< 112 / 150 >

この作品をシェア

pagetop