ドルチェ セグレート
「失礼ですが、あなたは彼女とどういうご関係で?」
「上司です。……今は」
「『今は』……ね。そうですか」
 
私よりも先に冷静さを取り戻した様子の神宮司さんが、真っ直ぐと諏訪さんを見て尋ねた。
その後の諏訪さんの答えに、神宮司さんはひとこと呟き、少し考えたように閉口する。
 
黙った神宮司さんに向けて、諏訪さんは饒舌に……まるで、営業かのようにスラスラと話し始めた。

「ウチの大事な社員が、最近、男運がないらしくて。プライド傷つけられるようなことをされた挙句別れて、その後すぐに、他にも女がいそうな男に引っ掛かりそうだって小耳に挟んだんですよ」
 
横で聞いてた内容に驚倒しそうになる。
 
それって、紛れもなく私じゃない! 
なんでそんな細かな内容を諏訪さんが……。ああっ。あれだ! 
絶対、志穂ちゃんだ! 人のプライバシーを!
 
羞恥心と怒りが相まって、到底冷静なんかじゃいられない。
あまりに衝撃的なことに、言葉のひとつも出てこなかった。
 
その間、諏訪さんは、睨みつけるような視線を神宮司さんに向ける。
刺さるような鋭い目に、神宮司さんは『心外だ』という顔をして反論した。

「お言葉ですが。スイーツで多くの人を喜ばせたいとは思っても、個人的に喜ばせたい特定の女性を、複数抱える主義じゃない」
 
淡々とした言い方の中に、静かに対抗心のような、怒りに似た感情を感じる。
 
当たり前だよ。いきなり見ず知らずの人に、遊び人みたいな言いがかりつけられたら誰だってカチンとくる。
人によっては、殴り掛かっちゃうかもしれない。
 
そう考えたら、神宮司さんは至って大人な対応。
 
改めて、彼への好感度が増したことを感じていると、諏訪さんがレジカウンターへと移動した。
女性店員に、会計がいくらかを聞いて、支払い終えると購入したケーキを受け取る。

つま先を出口へと向けたのを見て、内心ちょっとホッとした矢先――。
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