ドルチェ セグレート
バニラの指先
昨日の衝撃が未だ尾を引いている。
発注表を抱えて閉店後の売り場を、ぼんやりとしながら歩く。
「この辺り歩くと、いい香りするよね」
すると、奥から沙月ちゃんの声が聞こえてきた。
「そうかなぁ。私はあんまり好きな匂いじゃないな」
返答するその声は志穂ちゃんだ。
「……志穂の香水の匂いのが、私はあんまり得意じゃない」
「え? なんか言った?」
「ううん、気にしないで。こっちの話」
盗み聞きする気はなかったけど、ちょうど裏側の商品の在庫を調べてた私は、BGMかのようにふたりの会話を聞き流してた。
確かに甘くて、いい香り。裏手の私のところまで、その香りは漂ってくる。
この前、沙月ちゃんが『人気』と言っていた、スイーツ系の雑貨。
デコレーション模様のランチボックスやマグカップ。
色とりどりのスイーツの可愛らしいデザイン商品は、文具もある。
ペンをはじめ、ノートやメモ帳、付箋やマスキングテープ。
そのなかにある、香り付きのものが、甘い香りを放ってる。
年齢問わず、ああいう見た目も可愛いものだったら、女性受けは間違いないし。
季節も選ばないから、定番商品としては安定してるよね。
頭の中でそれらの商品を思い浮かべていると、連鎖して神宮司さんのお店を思い出す。
ショーケースに並べられた数々のケーキを思い返しては、幸せ気分と同時に、昨日の件で溜め息が漏れた。
神宮司さんと……さすがにもう会えないよね。気まずいし……。
ああ、でも、神宮司さんの作るケーキを、もう一度食べたいなぁ。
宙を見て、そこに彼が作ったケーキを思い描く。次の瞬間、ふと閃いた。
「河村さーん。あ、いた。もう上がってもいいですか」
「え? あ、もう時間だね。うん、上がって」
そこに志穂ちゃんが現れ、私の思い付きは一度休止する。
腕時計を見て指示を出すと、自分もとりあえず手持ちの仕事を終わらせようと作業を再開した。
発注表を抱えて閉店後の売り場を、ぼんやりとしながら歩く。
「この辺り歩くと、いい香りするよね」
すると、奥から沙月ちゃんの声が聞こえてきた。
「そうかなぁ。私はあんまり好きな匂いじゃないな」
返答するその声は志穂ちゃんだ。
「……志穂の香水の匂いのが、私はあんまり得意じゃない」
「え? なんか言った?」
「ううん、気にしないで。こっちの話」
盗み聞きする気はなかったけど、ちょうど裏側の商品の在庫を調べてた私は、BGMかのようにふたりの会話を聞き流してた。
確かに甘くて、いい香り。裏手の私のところまで、その香りは漂ってくる。
この前、沙月ちゃんが『人気』と言っていた、スイーツ系の雑貨。
デコレーション模様のランチボックスやマグカップ。
色とりどりのスイーツの可愛らしいデザイン商品は、文具もある。
ペンをはじめ、ノートやメモ帳、付箋やマスキングテープ。
そのなかにある、香り付きのものが、甘い香りを放ってる。
年齢問わず、ああいう見た目も可愛いものだったら、女性受けは間違いないし。
季節も選ばないから、定番商品としては安定してるよね。
頭の中でそれらの商品を思い浮かべていると、連鎖して神宮司さんのお店を思い出す。
ショーケースに並べられた数々のケーキを思い返しては、幸せ気分と同時に、昨日の件で溜め息が漏れた。
神宮司さんと……さすがにもう会えないよね。気まずいし……。
ああ、でも、神宮司さんの作るケーキを、もう一度食べたいなぁ。
宙を見て、そこに彼が作ったケーキを思い描く。次の瞬間、ふと閃いた。
「河村さーん。あ、いた。もう上がってもいいですか」
「え? あ、もう時間だね。うん、上がって」
そこに志穂ちゃんが現れ、私の思い付きは一度休止する。
腕時計を見て指示を出すと、自分もとりあえず手持ちの仕事を終わらせようと作業を再開した。