ドルチェ セグレート
駆け足で向かったランコントゥルは、閉店時間を過ぎたはずなのに、遠目で確認する分にはまだ明るい様子。
 
息を切らしてさらに近づくと、店先にふたりの人影が見える。
ただのお客さんの雰囲気ではない気がして、一度足を止めた。

店内の光が逆光になっていて、顔はまだ確認できない。
でも、背丈から、おそらく女性だろうと思われる。

静かに近づき、目を凝らしてみる。ひとりは、服装や髪形からして志穂ちゃんだ。

「あなたって、一体何者なの? 慎吾さんの彼女? それとも遥さん?」
 
予想通り、それは志穂ちゃんの声。だけど、会話の内容に顔を顰め、首を傾げる。
 
慎吾さんとか遥さんとか。でも、『彼女』って……。
 
ひとつひとつのフレーズから、繋がる人物が脳裏に浮かぶ。
次の瞬間。

「は? なんでそんなこと答えなきゃならないの?」
 
挑発するような声にも、どこか聞き覚えがある。

距離が近くなるにつれ、ふたりの顔もはっきりと見えてきた。
志穂ちゃんと向き合ってる子は、やっぱり、あのデパート受付の子だ。

「志穂ちゃんっ」
「か、河村さん!? どうして……!」
 
堪らず声を掛け、割入ってしまった。志穂ちゃんは、私を見て目を皿にする。

「『どうして』はこっちのセリフ! なんで、さっきはあんな嘘なんか……」
 
仕事中でも、極力こんなふうに人を責め立てることはしないタチ。
でも、今回の件は、意味がわかんない上、やりすぎだ。
 
志穂ちゃんは、目を吊り上げて詰め寄る私に後退りした。
引き結んでいた彼女の小さな唇が、ようやく開いたかと思えば話題をすり替える。

「う……。そ、それよりも、ほら! この可愛い人、やっぱり彼女みたいですよ」
「あ、可愛いって、よく言われまーす!」
 
『話を逸らさないで』と言いたかったのに、もうひとりの彼女が、にっこり笑顔で志穂ちゃんに答えた。
その軽いノリに、目を丸くさせる。

……この人、なんか想像と違うキャラ? 

見た目が、ふんわりとした砂糖菓子みたいな感じだったから、勝手におしとやかな女の子らしい性格を想像してたんだけど。
それに、デパート受付嬢のイメージって、落ち着いた人柄というか。

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