ドルチェ セグレート
「……私も一度、見ました」

堪らず、神宮司さんの瞳から逃れるように俯き、ぽつりと漏らす。
私の言葉に、なぜか神宮司さんは焦るような声で再度否定を口にした。

「いや、本当に違うから!」
「へぇ。やっぱり背の高い(こっちの)人かぁ」
 
すると、神宮司さんの言葉尻に被せて、花音ちゃんが興味津々な顔で私を見上げる。
その目は、私をバカにしたり蔑むようなものではなくて真意がみえない。

「え……? なに……?」

未だに向けられる、花音ちゃんの視線に戸惑う。

『やっぱり』とか、どういう意味なんだろう。
そんな大きな目でジッと見られると、目のやり場にも困っちゃう。
 
忙しなく目を泳がせていると、花音ちゃんがニィッと口の端を上げて、面白そうに言った。

「だって、この私にまで頼み事するくらい、慎吾さんはあなたのこと」
「……花音。空気を読め」
 
気になる言葉に顔を上げ、花音ちゃんと初めてまともに目を合わせる。
そのとき、花音ちゃんを制止する言葉が降ってきて振り向いた。

「えっ……」
 
店舗の正面入り口から姿を現したであろう遥さんに吃驚する。
遥さんは、花音ちゃんの背後に立って、彼女に厳しい目を向けていた。

「きゃー! 遥さん!」
 
そんな緊張した空気にもかかわらず、志穂ちゃんが突然黄色い声を上げる。
場違いな反応に、私はまた驚き、目を瞬かせた。

そこに、氷の如く冷たい言葉が降り注ぐ。

「うわぁ。あからさま。まぁ、見てすぐわかったけど。慎吾さんの相手があなたじゃないって」
 
おさまっていたかと思ったはずの女の闘いが、再び火ぶたを切って落とされる。
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