ドルチェ セグレート
「フランスのあのチョコの中に、ひとつ面白いものがあったんだ。甘さの中に、スパイシーさが混ざったチョコが。その正体は、ブラックペッパーだった」
「ブラックペッパー? あの、料理に使う?」
「たぶんね。で、俺も、そういうアクセントを入れたいと思った。ごくたまに垣間見る強さを表現したくて」
 
饒舌に説明をする神宮司さんが、最後にそう言って私に意味深な目を向ける。

「え……私?」
 
『強さ』というのは、私の持っているものかと思って、自分を指さす。
神宮司さんは口角を上げ、コクリと一度、首を縦に振った。

「こんなの……。最高に美味しくて、幸せです」
 
眉を下げ、ポロポロと目尻に溜めてた涙を零しながら、頬を綻ばせる。
 
こんなにうれしい気持ちを、相手にどうやって伝えたらいいんだろう。
本当は、もっともっと、飛び上がりたいくらいの思いだし、過去を帳消しに出来るほど、幸せだ。

「いつの間にか、忘れてたんだ。ただ、出来ないことだけ気にして苦しかった」
 
滲んだ神宮司さんが、目を静かに閉じて呟くように言った。
そして、再び夜空のように黒い眼差しが覗いて、こちらに向けられる。

「だけど、思い出したんだ。大切な誰かに作る想いと、それを受け入れてくれたときの喜びを」
 
彼の瞳に一番星。その輝きは絶大で、もう迷いなんかないことがすぐにわかる。

「明日香ちゃんの笑顔で」
 
眩いほどの笑顔でいるのは、神宮司さんの方だと思う。
私も、その笑った顔に歓びを覚える。そういう表情を、もっとずっと、引き出したい。
 
細めた目で笑う神宮司さんを見つめていると、ふと、屈託ない笑顔だった彼の顔つきが変わる。

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