ドルチェ セグレート
「あっ、そ、そうだ。あの、私、ちょっと考えてたことがあって! コンテストのケーキ、思いきって形自体を変えちゃったらどうですか?」
「形を?」
 
食べかけのオペラを見、顔を上げられない状態のまま、早口で続ける。

「可能なのかわからないので、無理かもしれませんけど……。ウチの店、最近売れてる商品があるんです。スイーツモチーフの雑貨なんですけど。だったら、その逆はどうかなって」
「雑貨に似せたケーキってことか……」
 
今日、不意に閃いたのはこのことだった。

お菓子をモチーフにしたものは、本当に可愛いし、人気がある。
ということは、ケーキのほうをなにかに象って作ってみたら……。
印象も残るし、きっと、見た人は笑顔になると思って。

「あとは、ファッション系のものとか、宝石とか」
「……なるほどね」
「あ。完全に私の理想論なので……。難しかったなら、ごめんなさい」
「いや。こう見えて、手先は器用だって学生時代から言われてるんだ」
 
簡単に出来るような言い方をしてしまったかも、と慌てて両手を振って謝る。
だけど、神宮司さんは何かに立ち向かっていくように目を輝かせ、力強い眼差しで言った。

「ありがとう」
 
きっと、大丈夫だ。
 
神宮司さんなら、これからも壁にぶち当たっても、こうやって一歩ずつ前を向く力を持ってる。
立ち止まりながらでも、一歩ずつ。

「そういえば、このオペラ。なにを入れてくれたんですか?」
「ああ。それは、ジンジャーなんだ。ほんの微かに感じる程度にしか入れてないけど。でも、ジンジャーって、芯から温めてくれるだろ?」
 
オペラを愛おしい表情で見つめる神宮司さんに見惚れていると、その目が急に私に向けられた。
オペラを見る目と同じような視線は、再び、私を一瞬で熱くさせる。

「そういうとこも、キミっぽい感じがしたから」


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