ドルチェ セグレート
特別なチョコレート
 
落ち着いてる時間を見計らって、私はバックヤードへと入った。
ドアを開けると、逆光の中、ひとり中央のテーブルについているのが目に入る。

その正体は志穂ちゃんだ。

「ごめん。なかなか手が空かなくて」
「私、今月でバイト辞めます」
 
待ってる間、ずっとそのセリフを用意してたんだろう。
すぐにそんな言葉を発した彼女は、ずっと俯いたままだった。

「……そう。急だね。せっかく、仕事にも慣れてきたところじゃない」
「河村さんも、本当はその方がいいって思ってるんじゃないですか? 私がいなくなった方がやりやすいって」
 
そのまま一度もこちらを見る素振りもせず、ぼそぼそと早口で言われる。
その態度を見る限り、さすがにこの間の件は気まずい思いを抱えているんだと思った。

だけど、きっと志穂ちゃんの性格からいって、素直に謝ったりできないんだろうな。
そもそも、まぁ、私に謝るようなことは特にない気もするけど。

そんなことを考えつつ、もう一方では仕事上の思考が浮かぶ。苦笑しながら、それを口にした。

「うーん。でも、もうしないでしょ? 店長としては、また新人を志穂ちゃんレベルまで育てるのも骨が折れるんだけど」
「相手が河村だからな。気にするだけ損かもしれないぞ?」
 
そこに、またいつもの、空気が読めない上司の声が割り込んでくる。

「諏訪さん! また急に!」
 
知らぬ間に店舗に現れては、人の背後に立ち、何食わぬ顔で会話に参加してくるものだから堪らない。
 
今も、いつからそこにいたのかと、後ろを振り向き、目を大きくさせた。
すると、諏訪さんは横に並ぶと、親指を立てて私を指しては、軽いノリで話しだす

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