ドルチェ セグレート
それから数日後。
「わー! すごい! こんなこと出来るなんて!」
「いや。そう珍しいわけでもないんだけど」
深夜のランコントゥルに訪れてる私は、休憩室にお邪魔させてもらっていた。
私の方が棚卸前で残業だったということと、神宮司さんが店に来てほしいと言ったから。
「ただ、これを長時間持ち歩くのはリスクが……壊れやすいからね」
神宮司さんが腕を組み、テーブル上に並ぶケーキを眺めて言った。
それもそのはず。目の前に並ぶケーキは、どれも精巧な仕上がり。
ケーキの上に、展示されている高級なペンを象っているものや、深紅のルージュを思わせるチョコ細工もある。
他にも、オーソドックスなメモ帳に、クリップやしおりなんかを細かく表現されていて。
「こんなに可愛いスイーツなんて、そうそう手なんかつけられませんね」
顔を寄せ、ほぅっと溜め息交じりにケーキに熱視線を送る。
「そう言ってもらえるのはうれしいんだけどさ。眺める方に満足したなら、これ全部貰ってって」
「えっ!」
「あ、迷惑だった? さすがに、ちょっと多すぎか」
まるで、どこかの展示品のような造りのスイーツたちを、全部私が貰えるだなんてと驚いて声を上げてしまった。
それらは全部で五個。
ひとつの大きさは一般的なカットケーキよりもひと回りくらい小さいから、正直、今日明日で平らげてしまいそう。
ただ、勿体ないのと……。
「いえ! うれしい! うれしいんですけど……太りそう」
「いや。明日香ちゃんはもうちょい太った方が……」
自分の身体を見るように視線を落とし、ぼそぼそと漏らす。
すると、神宮司さんはサラッと真顔で返してきた。
その言葉は、単純な感想だったのだろうけど、深読みしすぎた私は顔を真っ赤にして思い切り顔を横に向けた。
その反応を見た神宮司さんは、数秒間を置いた後に、私と同じように顔を赤くする。